Antagonistic pleiotropy hypothesis(拮抗的多面発現仮説)は、老化や寿命に関連する生物学的プロセスを説明する仮説の一つです。この仮説は、進化生物学者のジョージ・C・ウィリアムズによって1957年に提唱されました。
ダリオ・アモデイのエッセイの中でも言及されています。
拮抗的多面発現仮説(Antagonistic pleiotropy hypothesis)の概要
拮抗的多面発現仮説は、特定の遺伝子が生物の生涯の初期には有益な効果をもたらし、生殖の成功を高める一方で、後年には有害な効果与え、老化プロセスに寄与する可能性があることを指します。
拮抗的多面発現仮説は下記の2つの要素から成り立っています。
- 遺伝子の多面発現(Pleiotropy)
1つの遺伝子が複数の異なる特性や形質に影響を与える現象。 - 拮抗的(Antagonistic)な影響
ある遺伝子が若年期や繁殖期には有利に働く(生殖能力の向上、体力の増加など)が、老年期には有害な影響を及ぼす(老化、病気のリスク増加など)。
拮抗的多面発現仮説(Antagonistic pleiotropy hypothesis)の例
拮抗的多面発現仮説としては下記のような例が考えられます。
- カルシウム代謝と骨密度
若い頃には骨を強化するカルシウムの代謝が生殖年齢で有利に働きます。しかし、高齢になるカルシウム沈着が動脈硬化などの原因となることが示唆されています。 - 性ホルモンの影響
高い性ホルモン(例えばテストステロンやエストロゲン)は若年期には繁殖力や身体能力を向上させるが、高齢になるとがんのリスクを高める可能性が示唆さされています。
背景と進化的な意義
進化の過程で、個体の生殖成功(適応度)を高める遺伝子が自然選択によって維持されやすいです。そのため、老年期に有害な影響を及ぼす遺伝子でも、若年期に生殖成功を高めるのであれば淘汰されずに残る可能性があります。
- 生殖期間の重要性
自然選択は主に生殖年齢までの適応度を高める形質に作用する。 - 老年期の自然選択の影響が弱い
生殖が終了した後の老年期に起こる有害な影響は進化的な淘汰圧をほとんど受けない。
仮説の意義
- 老化研究の理論的基盤
老化の進化的な起源や、加齢とともに増加する疾患の背景を説明するために重要とされています。 - 医療応用の可能性
遺伝子治療や抗老化研究において、若年期に有益で老年期に有害な遺伝子の特性を考慮する必要があります。
この仮説は、老化の進化的視点を理解するうえで重要な枠組みを提供しています。
参考
Pleiotropy, Natural Selection, and the Evolution of Senescence
ジョージ・C・ウィリアムズ博士の原著論文です。